シンポジウム第1回 公共建築物の吹き付けアスベスト

Symposium 2004 : 1 Discussion

討論

司会: 4つの質問をシンポジストの皆さんにお答えいただきます。第1は、吹き付けアスベストの問題ですが、現在の法律に不備があるので、法的に対策を立てないと改善されないと言う点からお願いします。

永倉: 法律上の問題での大きな点として、施主の責任の問題がない点があります。お金を出す側にアスベストの問題で責任がかからない法律になっています。業者に対してのみ法律の縛りがかかるということで、アスベストがあっても『ある』となかなか言えない板ばさみの状況で曝露している実態があります。それを突破するには、施主責任を問う法律の枠組みを作ってゆく必要があると思います。

牛島: 法的不備がいろいろありますが、アスベストがあるとわかっていれば法を守るでしょうが、アスベストの存在を知らないことが多いと思います。建築基準法上の建築確認申請の時点で行政が守るべき法律を知らせればよいのです。建築確認申請は委ねられた民間業者が確認申請をおろす事があります。このときも、審査項目にアスベスト対策を入れて欲しいと思います。また、住民からの通報のように、監視するシステムとしての法律が全くないので、設ける必要があります。

保護者: 一般住民はアスベストがどこにあるかわからないので、わかるよう行政に頼むのですが、届出がないからアスベストはない、と答えられることがあります。それは逆で、行政の側からしっかりと調べるシステムを作るべきです。

司会: 行政がもっと関わって調べる法律ということですね。

西田: 現状の法律では不十分ですが、その法律すら守られていない。文京区の保育園はその例です。また、マンションやビルの解体工事で耐火被覆材としての飛散性アスベストが適正に処理されているのか。つまり、一般廃棄物・建設廃材として安定型処分場へ運ばれているのが現状のようです。飛散性アスベストは特別管理産業廃棄物として管理型処分場で処理しなければなりませんので、実際には守られていないのです。きちんと法律で明記すべきです。

池尻: 法律は不備ですが、現状でもやれることは十分にあるはずです。例えば、練馬区では、昨年10月から改築・解体時に環境保全課がチェックシートを建築課に渡してアスベストの有無について業者を指導しています。特定建築行為としてもチェックシートを活用しています。これらは法令上規定されていても実務レベルでは実行されていなかったものです。アスベスト対策が作業環境の対策に偏っていると思います。特に吹き付けアスベストの場合は日常的な曝露の危険性があるので、一般環境中のリスク管理や除去対策を法令できちんと位置づけないと対策が進まないでしょう。

司会: 大気汚染防止法やビル管理法を強化する方向につながる意見ですね。

司会: 第2に、厚生労働省や文部科学省の通達が事態の改善につながるとして、それらへの期待や意見などお願いします。

永倉: 練馬区の問題で文部科学省が今年通達を出しています。『アスベストの再調査をするように、また、工事の際は国庫による費用負担も見込める』としています。ただ、このような通達をある事件の報道後に出すのではなく、もっと積極的に、例えば昭和62年の一斉調査にはこういう点で不備があったということをきちんとアナウンスし、その上で全国的な小中学校のアスベスト再調査を急いでする必要があると思います。というのも、昭和62年から現在まで17〜18年放置されているわけですが、劣化の状態によりアスベストの粉じんが出ているとすると、そのようなところで子供たちが毎日生活しているという信じ難い状況が無いとは限らないからです。ですから、文部科学省が徹底的な全数調査を指示する通達を出し早急にきちんと対策を立てるべきなのです。

牛島: 見積もりが金額の低いところでなされているのが問題です。見積もりには養生が含まれていません。建築・解体時にはアスベスト養生を見積もりに記載する通達等をしてもらえれば状況が変わってゆくと思います。

保護者: 子供たちはもうほとんど小学生になりましたが、公共の施設でもうこれ以上アスベストの曝露がないようにしてください。大都市で生涯に曝露するであろう量を短期間に吸ってしまった子供たちのためにせめて公共の場ではアスベストに曝露しないようにお願いします。もちろん周りの解体工事の際にも曝露があるでしょうが、小中学校等では早急に対策を立てて欲しいというのが保護者としての気持ちです。

西田: 公共施設での問題と同時に、これからは環境曝露による被害の問題が多分出てくると思います。今、特化則の改正がされています。例えば、非常に大きな規模の建物については法律の網がかかりますが、一般家庭などにはかかりません。一般家庭にも網がかかるようなガイドラインを作り、特にマンションなどにはきちんとアスベストの改修工事をできるようにすることが必要になるでしょう。

池尻: 小中学校の吹き付けアスベストに関しては、昭和62年の通達をきちんと出し直しして欲しい。その後規制対象や範囲もずいぶん変わっているので、それをきちんと踏まえて改めた通達をもらいたいです。それから、是非、練馬区の調査の教訓を全国化していただきたいです。

司会: 第3に、法律や通達の段階ではなく、運用の段階などで行政がするべき点はございませんか。

西田: 運用よりも、まず行政の方には勉強して欲しいです。年度ごとに担当が替わると引継ぎがされません。例えば保育園の件もそうでしたが、担当者が全然状況を知らないのです。アスベストがどこにあるのか知らない。せめてそのようなことは知ってもらいたい。また、私は神奈川県内の労働基準監督署を回って、11月の世界アスベスト会議に参加してくださいと要請をしています。このようなところからやってゆかなければダメですよね。法律も大事ですが、基本的な学習を行政の方にはしてもらいたいです。

保護者: 私たちの保育園の場合は、当時の児童課(現在の保育課)が工事の計画を立て、それをもとに実際の工事計画は営繕課が立てました。保護者は児童課にアスベストがないかを尋ねましたが、児童課はアスベストを知らないので、『無い』と答えました。行政の中できちんと情報を共有して欲しいと思います。あれから5年たち、当時の児童課の職員は誰もいません。情報の共有が無いために、同じことが繰り返されるのではないか危機感を持っています。行政の中で教訓を生かすシステムを作って欲しい。また、問い合わせにきちんと答えられるシステムも作ってください。

牛島: 保育園に関しては、見舞金10万円のことを他の方には知らせていなっかったように、情報の共有を狭くしている。教訓をどう伝えるか条例など法的なもので仕組みを作ってゆくしかないのでは。担当者にヒヤリングしましたが、『昔のことであいまいである』として答えてもらえなかったことが多々ありました。現在も議論していますが、条例など法的に文書を残して引き継いでゆくことをしなければ、メモ程度ではだめです。行政は市民の意識や智恵を吸い上げる形で、市民やNGOなどとのつながりをもっと持っていただくようにしてください。見積もりにしても、項目のチェックリストを作るような智恵を行政の中にいれていただきたい。

繁野: 現場の人と話を聞く機会がありましたが、経済的問題が一番でした。民間ではほとんど石綿建材の除去工事は守られていません。公立高校の改修工事が行われていますが、アスベスト含有建材が見つかっています。対策が必要と思います。

 名古屋で初めてアンケートを作り、どういう回答が来るのか、私たちはNGOなので役所がどう反応するのか心配でした。実際には、それなりに調べて回答してくれたと思います。答えるほうも、担当が替わり、書類は保存期間が5年から10年のため存在せず、ということで大変だったと思います。役所は、部署と言うよりも、各担当者の熱意がものを言うのですが、今回はきちんと回答が来たので、やり方によっては役所もある程度は動くのではないでしょうか。これからのNGOの活動をどうするか、どう役所を動かすかを考えています。

永倉: 特化則の38条に基づいて、改修・解体工事の前にアスベストの事前調査がなされていない、という問題があります。労働基準監督署や自治体の環境対策課などに連絡してアスベスト対策をしていない工事であるか調査を要請することがありますが、大半は事前調査して文書記録を取っていないのが実態です。これを守らせる対策や取り組みを労働基準局や労働基準監督署に要請しているところです。2004年の10月ごろにはアスベスト含有建材対策が法律に盛り込まれることもあるでしょうが、法ができたとしても現場で守れるような取り組みや監督・監視が必要です。

 次に、都内の営繕課や教育委員会へアスベストの実態の話を聞きに行っています。また、最近の工事の状況について、情報公開による図面をもとにアスベストの事前調査や工事がきちんと為されているかチェックし、その件について所轄の営繕課などへ話をしに出かけています。近頃変わったと思いますのは、練馬の問題以降、話を聞いてもらえるようになって来ました。それまでは、「なんだこいつ」ということでろくに話も聞いてもらえませんでした。それでも、何度も繰り返し行って話しをしてきたわけです。今日は何人か区の方が熱心に勉強をしに来ていただいていますが、このように積極的に話を聞いていただき、私たちのやろうとしていることについて耳を傾けていただきつつあるように思います。

 最近のことですが、江東区のある小学校の図面には『吹き付けアスベストの撤去』とあり、詳細を問い合わせると、『すでにアスベストは無かった』と言う回答でした。図面上はアスベストの撤去が指示されていますが、そのアスベストは過去既に撤去されていたのです。その過去の作業はどのようであったか情報公開で請求しましたが、データが出てきません。無造作に撤去したとは思えませんが、『おそらく昭和62年の一斉除去のときにおこなったのでなはいか』と言う説明でした。しかし、これを立証する手がかりはありません。よって、私たちは図面のような動かぬ証拠を見つけて、このアスベストはどうなっているのか、と問い続けるしかないのです。発ガン性のある物質がいつ我々の子供たちの通う小学校で飛散したかもしれないということを知ることは大事で、そこにいた小学生はあと30年から40年問題を抱えて生きてゆくわけですから、基本的な情報を知ることがなかなかできないのです。江東区についてはこれを契機に区の施設の一斉調査をして欲しいという要請をしております。区も取り組みたいとしています。豊島区でも一斉調査をする方向です。

 JR亀戸駅の敷地内の店舗で、吹き付けを一部除去して鉄骨をそこに溶接して天井を貼り付ける工事をしていました。亀戸の労働基準監督署と江東区の環境対策課に電話で調査を依頼し、両者とも一両日中に検査に入り、事前のアスベスト調査をしていない工事であった可能性が高く現在調査中です。身の回りのあちらこちらに飛散性の高いアスベストがあると言う現実を、法律で縛ってゆくとともに現場を一つ一つ確認して監督するという小まめな作業が必要であると思います。

池尻: 練馬区の経験は行政のありかたとしても非常にたくさんの課題・教訓を残していると感じています。練馬区は最終的に4月の段階でアスベスト対策大綱をまとめました。そこには区としての課題はある程度反映されています。今、私が考えているのは、施設とはどういうものか、見方を変えなければいけない時代ではなかろうかということです。施設とは、そこで利便を受け何らかの便宜を図ると言うものであると同時に、常にある種のリスク源であるという問題意識が必要です。アスベストに限らず、耐震性やシックスクールの問題のように、いろいろな意味で施設が健康に対するリスク因子をはらんでいるということをきちんと整理して、リスクマネージメントの視点から施設管理を洗いなおすことがこれからの行政にはとても大事であろうと思います。リスクマネージメントと言う場合には当然住民との関わりが出てきますし、行政の様々な部署の横の連携が不可避になります。そういう問題意識を持って施設管理の問題を立て直すことが必要ではないでしょうか。

司会: 時間が押してきました。会場の名古屋から来ているM氏からお話を伺います。

M氏: 今日は。1988年の全国の小中学校のアスベスト一斉の撤去に絡んで、私の勤務先の学校でも撤去が始まりました。撤去の状況が最初はあまりにも杜撰であったことから、見ただけではなく解析により調査をし直してくれ、自分の学校だけではなく名古屋市の学校全てを調査してくれ、というような質問状を出しました。それがダメだったので、地方公務員なら誰でもやれるのですが、職場の労働環境の改善を求める法律があり、地方公務員46条の措置要求ですが、これを出しました。措置要求を出せば行政はある程度の回答を出してくれるので何らかの押さえになるのかと思っています。当時は、撤去が全部されたと思っておりました。が、今日話しを聞いていまして、これはダメだな、また対応しなければならないと思っています。

 2002年には名古屋市の学校でアスベストが発見されたというニュースがありました。なぜそうなったかと言うと、自分自身のアスベストへの認識が薄かったこと、詰めの甘さからなので、再度名古屋市の学校を調べなおしてくれという措置要求を出しました。行政はなかなか動かないので、文部科学省にも質問状を出しまして、省にも行きましたが、省は『それぞれの地域できちんとやっているだろう』ということでした。名古屋市に聞くと『業者が見つけたら回収するという契約でやらせています。』というのが最終的な回答です。

 業者が見つけなければ、わからなければ名古屋市の現状では撤去ができません。これは全国的な対応です。池尻さんのような議員さんがいれば一緒になってと思いますが、名古屋ではいないのです。今日の話を聞いていて行政に対して、完全撤去を目指すためには、何を調査するのか、何を調査していないのか、文部科学省が出した資料などをもう一度整理して、第3次の措置要求をして、判定が悪ければ判定取り消しまでやってゆきたいです。一人でもやれる、ということを皆さんの参考にしていただけたら有難いと思います。

司会: どうも有難うございました。他に会場からございますか?

会場1: 施工業者でゼネコンにいた事があります。大手はちゃんとやっています。サラリーマン官僚とダラ官僚の問題があります。建築基準法には共通仕様書もあるので、こういうものに準じてやりなさいと一筆書いて、能力のない官僚を叩けばよいのです。私はデジタルカメラで現場の写真を撮ります。これを監督署などへ送りますが、大体すぐに対応します。写真を送ったことの証人になると言えば役人は動きます。役人は市民が言わなければ全く動かないということを認識すべきです。役人を頼りすぎてはダメです。労働安全衛生コンサルタントという資格を持った方が全国で2千人ほどいます。そのような方々を利用するのもよいと思います。

会場2: 現場に携わる者としても、役所の側からしても、アスベストが当然のようにあるものについては、除去をこのようにしなさいという法律があります。明らかにアスベストがある場合は、法律どおりに飛散しないように処理が行われています。しかし一方の建前だと現場からは思います。パッと見て担当者が『これはアスベストではない』と言えば誰も検査しないので工事は進んでしまいます。吹き付けアスベストだけではなくて、工場にはってある大波小波のスレートや一般住宅の屋根にたくさん使われている化粧石綿板などの石綿含有建材も問題です。最初は固まっていて飛散はしないけれど、加工する時や、表面の塗装がはがれて風雨にさらされて風化すると、触っただけで粉になります。それはすでに環境汚染になっています。今日のテーマは公共の建築物ということで文京区保育園や練馬区の例は本当に先進的で、少なくとも役所が公共的なものにあるものが放置されているとか管理不十分であるというのは突破口に過ぎないと思います。アスベストは耐火・防音・防温・結露防止などに使うので、地下街の機械室ではむき出しになっているでしょう。10月から新しく法律も施行され、特化則も変わると聞いています。公共建築物の典型である学校の問題を皆さんと一緒にしてゆきたいと思います。なにしろ、アスベストがどこまで含有されているのかという実態を明らかにしないといけないと思います。

会場3: 保育園の父母です。デジカメで証拠を撮るというのは良いアイデアです。一つ一つ現場をつぶしてゆくのもできることとして非常に有効なことだと思います。アスベストセンターでアスベストGメンのような組織を募集される予定などありますか?

司会: 5秒前までは予定がありませんでした。N氏がアスベストGメンを育てることも…。

永倉: 考えてみます。公共施設のアスベストの問題は、公共施設以外の膨大な量のアスベストの足がかりという位置づけだと思います。公共施設の問題をきちんとできなくて、毎日のように民間で無造作に解体されている工事に対してなにができるでしょう。監視できる立場の行政の人達にアスベストことをよく知ってもらい、自分達の所をやった後に民間の杜撰な解体工事を監督して欲しい。私達もアスベストがありそうだという情報を行政にどんどん入れて協力してゆくチームワークがこれから必要になってくると思います。もう一点最近、厚生労働省がモルタルの中にアスベストが使われているというデータを出しています。10月以降の主要な禁止建材から漏れたものとして、モルタルの中に案外ありましたと7月2日発表したものです。10月以降も使われます。

会場4: 保育園の裁判の話がありましたが、基本的にはアスベストを飛散させた人の刑事的な責任は問えるのでしょうか?説明してください。

牛島: 傷害としての刑事責任は今の段階では無理です。将来も因果関係が難しいので、交通事故のようには行かないと思います。ただ、民事訴訟は被害を受けて損害賠償を主張する側に立証責任があり、このようにアスベストを大量に暴露した場合は一定程度損害を推定できます。今の段階では皆さんまだ幼児や児童で、アスベストを曝露されて20年から30年たってから影響が出るということですので、科学的な立証が難しいのです。特化則の罰則を業者に求める可能性はあります。ただ、そこまで追求はしませんでした。労働者の保護のために業者へ罰則を問えるのですが、労働者が誰であったかわからなく、外国人を使っていたこともあったらしく、曝露したことすら知らないのではないでしょうか。彼らの代わりに追求しても良いのですがしていません。

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