シンポジウム第1回 公共建築物の吹き付けアスベスト

Symposium 2004 : 1

まとめ

司会: 最後に一言ずつ、公共建築物もしくは吹き付けアスベスト、今後これが大事だというようなまとめの一言をお願いします。

永倉: 議論し尽くされた感じですが、A氏の言われたように皆さんが工事現場や公共施設の現状について興味を持ち天井を見上げてもらう、そこから始めるべきだと思います。長年お子さんが学校に通っていても教室に吹き付けアスベストがあることに気が付かなかった人が多いです。天井を見てこれは何だと考えてもらうことが大事です。アスベストがあるのではないかと不安に思ったら我々へ連絡してくれるのも良いでしょうし、所轄の行政に調査をしてもらうなど、地道な現場の手続きを積み重ねてゆくことが非常に重要だと思います。

繁野: 名古屋でも学校の昭和62年頃の調査はありましたが、そこから漏れているのが、中日新聞によると、9校、2002年にわかりました。学校の再調査を強く訴えてゆきたいです。アスベストの除去工事の方から相談がありました。自分達が働いている所で天井にアスベストがあった時に、なぜ働いている人たちがもっと強くこれは除去して欲しいと言わないのだろうかと言うのです。こちらとしても答えられませんでしたが、やはり、天井がアスベストであるということを知らない人もいるでしょうから、アスベストGメンの養成講座を是非やってください。名古屋から来ますので。

牛島: 市民としては要望をきちんと言うことが重要です。今、保育園の子供達は曝露したことの手帳を持とうとしています。それを条例や協定や要項という形で残してゆこう、そして、担当者が替わってもいつでも通用するようにやっております。因果関係が難しいということですが、健康対策専門委員会を立ち上げて、仕事でアスベストを吸ったというような特例が無い限り、万が一発症したときには認めてゆく形で作っていって欲しいというような要望を挙げていくことができつつあり、できる立場にあります。そういうことを挙げてゆく必要があります。市民が言えば少しずつですが変わっていくと思います。訴訟の制度について申し上げますと、訴訟したことは大きなきっかけになったと思うので、訴訟を使いやすい制度にしておくべきだと思います。裁判所は司法改革の中で、民事訴訟に敗訴者負担という制度を入れようかという議論をしております。負けた者が勝った者の弁護士報酬などの費用を持つ制度をいれようとしています。ヨーロッパにありますが、アメリカなど法律扶助が充実していない国では、各自が自分の選んだ弁護士報酬を負担しています。敗訴者負担制度が入った場合、日本では法律扶助もない不十分な中でなかなか訴訟できなくなってしまうので、こういうものには是非反対してゆきたいです。

保護者: 公共の建物という観点からですが、義務教育なので学校からは出られません。その時間そこにいなければならないのです。児童館ならそこに行かない選択もあるわけです。保育園では保護者が迎えに来るまで朝から晩まで保育園にいなければなりません。そこにアスベストがあるならば非常に早く対策を立てて欲しいです。専門委員会ですが、区長の判が押してある、あの時期にあそこにいたということの証明になる手帳の発行を直後から望んでいて、それは検討委員会の検討事項では無いにもかかわらず、検討委員会が検討中であるという理由から区は出しませんでした。単にそこにいたということを保証して下さい、それは20年後30年後に区役所に行って『子供達が当時あの保育園に在園していました』と言っても区の担当者は替わっていて『何のことですか』と言われかねません。区長の判が押してある、当時アスベストを吸ったということがきちんと書かれたものが必要と考え、それを要求し続けて、やっと準備がほぼ整いつつあり、発行されそうな状況になっています。証明をする紙はもらえるというところまで来ました。今年中には多分発行してもらえそうな感じです。私たちの保育園の例ですとやはり、保護者が声をあげなかったらそのままきっと工事は進んでいただろうと思います。天井がはがれているところで、区が出してきた提案は糊化して天井を貼って工事は続けると言うものでした。そこで全員が反対をして、全面撤去をして下さい、その間他の園へ行く不便を受け入れますので、とにかくアスベストを全部外してください、と働きかけをしたので今保育園には全くアスベストはない状態です。市民の側もきちんと意見を伝えて勉強しておかないとそのままになっていたのではないかという恐れがあります。本当は行政が自分達で考えて自分達でやるべきなのでしょうが、やってくれないのでこちら側が動かねばならなかったのです。アスベストGメンの話ですが、保護者のなかには近くの工事でアスベストかなと思ったらどうすればよいかというパンフレットを永倉さんの協力で作り、配っている方がいます。自分達の子供を自分達で守ろうということに力を注いでゆこうと思っています。

西田: 練馬や文京では取り組みが進んでいますが、横須賀のことですが、吹き付けアスベストのある学校名まで情報公開して保護者の方へ流すようにしています。なかなか自分の学校ということになると声を上げにくいというのがあり、ネックになっているのかなと思います。そういうところをサポートするという意味で、もう少しホームページにアンケート調査の結果を公表して、練馬の例や全く進んでいない例を、名古屋でアンケートをやってくれましたが、良い例や悪い例を公表するというような工夫をしながら、市民として保護者として学校にものを申してゆくことが基本と考えています。

池尻: 練馬区は先進的な対策をしている自治体ということになっていますが、当初は決して軽やかではありませんでした。特に重い財政負担が求められることが十分推測できたので区としてはとても重い対応が続いていました。最終的には、区の姿勢が変わる転機は議会が対策を決断したときでした。議会ももともとは区以上に空気が重たく無関心でした。極めて劇的に議会の空気が変わるには、マスコミの力などいろいろな事情がありました。基本の基本は市民の動きであったと思っています。保護者が区に問い合わせをし、申し入れをし、説明会を求めるという動きが議会を動かしたという実感があります。他方では、市民の力をどうやって引き出し、作ってゆくかということを意識的にやらねばならないということを感じました。情報の開示はよく言われますが、練馬区が持っていた情報として劣化状況調査をやりAからEまでランク付けをしました。ところが、実際学校に入ってみると、この調査がほとんどあてにならなかった。教室の状況をみて、あらためてアスベストの曝露のリスクをひしひしと感じました。市民のエンパワーメントのためには本当に現実をしっかり踏まえた情報をそろえる必要があると強く感じました。もうひとつ、専門家の役割として、自分も20校ほどの学校に入りましたが、その時に大学の先生も含めた調査団を作りました。レポートを出してもらい区に届け、全部の学校にも送りましたが、最終的にはどんなに弁解されようともあの天井を見ればきっと怖いだろうという事実と、専門家の知見から見ての事実、これらが市民を動かした大きな材料であったと思います。自分も保護者の方と具体的に話をする時にこれらの材料を使いました。市民のエンパワーメントのためにアスベストセンターや専門家の方がやることもきちんと考えてゆかなければならない。そのなかで、本当に市民の力が増してゆけば変わるものだ、ということをアスベストの問題では実感しました。

司会: 本日はどうもありがとうございました。

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