シンポジスト討論

Symposium 2008/08/28

司会:最初にシンポジスト間で、お互いの発表について確認しておきたいと思います。片岡さんに伺いたいのですが、クボタの結果ですが、平均年齢56歳ということで比較的若い方に病気が起きているようです。潜伏期との関係で、だいたい何年頃ばく露を受けた方が、何年くらいの潜伏期で発病されているというデータは判っているのでしょうか。

片岡:車谷氏はご存じです。僕が答えられないだけで、ばく露開始時期と発症期は確定していますから、それはすぐわかります。

司会:初めてばく露を受けたのは早くても1955年とか56年以降ということなのですか?

片岡:もちろんそうです。例えば一番若い人は33,4歳でお亡くなりになっています。この人はほぼ0歳や1歳から曝露しています。赤ん坊がクロシドライトを吸わされていたということです。基本的にクロシドライトを使い出したのは1957年です。クボタの説明ですけれど。終わったのは1975年です。

司会:まだ潜伏期が始まったばかりですね。1975年に吸入された方が、平均的に発症まで40年とすると2015年です。今の被害の数値は始まりかけの数値で、今後発病する可能性が高いと考えていいわけでしょうか?

片岡:クボタの内部の発生に対する見通しについての見解は、今司会がおっしゃったことと同じことをクボタの担当者は言っています。そういう意味ではいますぐにでもサーベランス体制を確立しなくてはいけないということですね。

司会:他の方、いかがでしょう。

片岡:内山先生にお聞きしたいのですけれども、保育園の健康管理手帳の所持率は何%くらいでしょう。

内山:50%以下、40数%だったと思いました。また今度9月5日に会議がありますので、その時に報告があると思います。今回の報道で、持っていたいという方が増えていると思います。

司会:ばく露の形態として以前からあった工場、鉱山型のばく露について片岡さんからご発表があったわけですが、その濃度が職業性ばく露に近いくらいの高濃度を感じさせる印象を受けました。過去にどのくらいの濃度だったのか推計は始まっているのでしょうか。

片岡:リスクの評価とともに、乏しい情報の中でばく露状況の推計はする予定と聞いています。そういう意味では、クボタ側は患者さんとのやり取りは協力的にやっていますので、情報開示という基本姿勢の中で、できるだけ内部のばく露情報に関する、言ってみれば後付的なリスクコミュニケーションというかハザードコミュニケーションか知りませんけれども、そういうふうなものが成立すべきだなあと考えています。

内山:村山先生にお聞きしたいのですが、今後の問題として、もしアスベストの大気環境基準なり、そういうものを考える時に、現在は当面ということで、あの時はベンゼンを対象として、当時のベンゼンの濃度が10【-6】ですと非常に基準と10倍以上の差が出てしまう。当時の環境値の基準が高かったものですから、当面10【-5】以下ということで、その当面は再検討されていないのですが、今回のようにあくまでもベンゼンやその他の有害大気汚染物質、発がん物質は労働環境ではそういうことがあったかもしれないけれど低濃度で、本当に発症するかどうかはわからないけれどもある程度未然に防止しておこうということで環境基準を作っているのです。今回のようにある程度の労働環境だけではなくて、すでに環境中に居る方もそういう症例があるかもしれないというものにたいして、10【-5】ではなく、今度はおそらく10【-6】の議論になると思うのですが、その時に実際のバックグラウンド濃度が10【-5】程度のリスクがあるわけですよね。それをどういうふうに考えていったらいいか。村山先生のお考えがあればお聞きしたいと思います。

村山:最初に内山先生がおっしゃったように10【-5】でいいか、10【-6】でいいかという議論ですが、わたしが文京区保育園についていろいろ調べる機会がありまして、その時にどういうレベルがいいかなということをいろいろ考えたのですが、やはり先ほど先生がおっしゃったように当面のレベルとしては10【-5】という議論でも良かったかもしれないと、ただあくまで当面で、既に10年くらい経っているわけです。しかも今おっしゃったように、影響が健在化してきているという状況の中では、もう一桁くらい下げたほうがいいのではないかなと私は思っています。ただ、現状で既に、10【-5】ぐらいのレベルがあるということがありますので、それをどう考えるのかということがあるのですが、目標としてもう一桁下げるということはあってもいいと思うんです。そのためにどういう対策がありうるかということをリストアップしていくということが必要だと思います。例えばそのためにどういう建材を対象にするかとか、どこら辺の局所的な発生源がありうるかということを今すぐにはお答えできないところがありますが、そういう発生源をつぶさに抑えていくということが、今後必要になってくるのではないかなと思います。後は基準という意味では、私は局所的な環境に関する目安のようなものをどういうふうに決めていくかということが必要だと思います。これは先生からご紹介があったように、解体の量が今後どんどん増えていく、そういう場合に本当に短い期間だけれども高い濃度になっていく、という濃度に関してどう考えるかというものに対する基準も今後考えていく必要があると思っています。

司会:すみません。今の話をわかりやすく言うと、現在の一般環境中のアスベスト濃度でも、10-5ですから、10万人に1人くらいが一般環境のアスベストを吸って亡くなっているかもしれない。今までは10万分の1という環境基準でやってきたけれども、現在の濃度がそれにあたる。具体的な環境被害ある場合は、100万人に1人くらいの基準に下げておかないといけないのではないかという話で、よろしいですか?(一同 うなずく。)建物の中の濃度で実際発病する方が出ていますが、今のところ建物の中の石綿濃度測定の法的義務ははっきりないでしょうし、石綿の環境基準もない。今後多くの方が発症する危険は、建物の中とか建物改築をしたときに周りの人が吸ってしまうというものです。建物の中の石綿の基準濃度が無くては困るのではないか?誰かが定期的に測定しなくてはいけないような気がするのですが、皆さんいかがでしょうか。

村山:これは私が答えるべきかわかりませんが、他の化学物質でも室内環境基準というのが決められているものがありますよね。それはかなり厳しい環境で、生涯曝露した場合にどの程度のリスクがでてくるか、というあたりから基準が決まってきていると思います。アスベストによる曝露ということが大きな問題になるということが今後も続くとすればそのあたりも考えていく必要があると思っています。

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