アスベスト対応の現実
―事前調査、気中濃度測定、除去完了検査―

Panel Discussion 2020

 アスカ技研の冨田です。現場で起こっているアスベスト対応の一部を紹介します。

 まず事前調査です。これは、私たちの近所で行われた民家の解体工事です。大きな敷地内に軽量鉄骨の建物が2棟ありました。外観から、1棟目にかわらU、サイディング、軒先天井材がアスベストの対象建材と思われます。もう1棟を見ると、カラーベスト、サイディングが確認できます。お知らせ看板を見てみると、調査方法、建築材料目視、外部屋根、壁材、調査結果、目視ですが「なし」となっています。全く調査していないことが分かります。近所の方が通報したようで、役所の指導が入り、お知らせ看板が新しくなりました。これを見てみると、調査方法目視による天井、床、壁外部となっており、調査をみなし含有としたものは屋根カラーベスト一つのみとありました。

 

 次に、少し大きな建物を見てみます。これは平成3年に竣工した6階建ての建物の解体工事です。現場の塀には分析結果が掲示され、「1階トイレ天井材、アスベスト含有せず」「階段床材クリソタイル4.0%含有」、この2検体の分析結果報告書が掲示されていました。お知らせ看板を見ると、先ほどのビニル床タイル、クリソタイル4.0%、この1種類のみがこの平成3年6階建て建物の中にアスベスト含有物としてあるということが示されています。わざわざ2検体の分析結果だけの報告書を示して、そのうちの1個であるものがこの建物のアスベスト含有しているものの全てだということを示しています。どういうことが起こっているのか、想像がつくと思います。

 

 

 次に、アスベスト除去工事における測定業者の対応です。私たち測定業者が要求されることは、問題のない測定値、これを工事関係のみんなが期待しています。それを達成するためにどういうことが行われているかというと、大きく三つです。一つ目「除去工事業者と協力して測定業者の視点で漏えいを防ぐ」 2点目、アスベストを捕集しないように測定場所で工夫する。3点目 数値の改ざんです。

 

 まず、「業者と協力して漏えいを防ぐ」を紹介します。これは、除去作業開始前の集塵・排気装置の排気をパーティクルカウンター、クリーンルームなどのほこりを数える機械ですが、それで測定した結果です。0.3ミクロンのほこりが2,340カウント/リットル、これは、集塵・排気装置としては整備が全然できていない状態です。作業員の方に状況を伝え、現場でHEPAフィルターをはめ直すなどの整備を行ってもらった結果、0.3ミクロンの埃が5カウント/リットルまで下がり、改善され、工事は無事に終了しました。こういうことを繰り返していると、除去業者さんの中には、自分たちでパーティクルカウンターを準備し、整備状況を自分たちの倉庫で確認してから持ち込むようになり、私たちは整備された集塵・排気装置が運搬や設置で異常をきたしていないか、最終確認を現場で行うようになりました。

 

 この写真は、その整備した、持ち込まれたものですが、0.3ミクロンが149カウントと、三角と記されています。現場で作業員の方と「三角なんて持ってくんなよ。バツだけど」と言いながら、きちんと整備されたものに入れ替えてもらって、工事は無事に終了しました。しっかりと整備された集塵・排気装置では、除去作業中に、目詰まり、風がHEPAフィルターを通らずにスイッチ周りから入ってしまう場合、風の通路が変わる、あるいはダクトの破れ、ダクトの外れ、等の問題が起こらなければ、漏えいすることはありません。

 

 これは、除去作業時の排気口での測定した様子です。私たちはこの除去作業時にパーティクルカウンターで、こまめに排気口の様子を測定します。パーティクルカウンターはデジタル粉塵計と比べ感度がとてもいいので、何かあったときにはすぐに反応します。また、先ほどの目詰まりの点も、風量が落ちていないかということをこまめに確認しています。もし問題があったときには、すぐに除去作業者の方に伝え、除去作業者の方は作業を止めてくれて、すぐに集塵・排気装置の確認をしてくれるというようなことで集塵・排気装置からの漏えい防止ということに努めています。

 

 次に、「測定場所で工夫する」ということを見てみたいと思います。これは公立高校でのアスベスト除去工事での室内環境測定の様子です。私たちは別件でこの学校を訪れた時に、この光景に遭遇しました。測定器は窓際にセットされて、ろ紙は(石綿粉塵の少ない)外を向いています。ここの窓は開放状態です。このように測定は「工夫」といいますか、「石綿粉塵を検出しない様に測定業者が工夫すること」が行われています。他の現場ですが、「集塵・排気装置の排気口が膝下に出ているのに胸元の位置で測定したり」、「写真だけセキュリティー前で撮って実際の測定はかなり離れた場所」、ということは私たちも遭遇したことがあります。現場の除去作業員さんからも、他の現場の様子としてよく聞く話です。

 

 次は、測定値の改ざんです。この写真は、除去作業前の集塵・排気装置の排気の測定結果です。295カウント/リットル、先ほど示したように、濃度が高くだめな状態です。これを現場に伝えましたが、聞き入れてもらえず除去作業が始まり、始めた直後に数字が上がり、漏えいが確認できています。この現場でどういうことが起こっていたかというと、役所の除去前の立ち会いでは、まずデジタル粉塵計で集塵・排気装置がゼロカウントであること(粉じんの漏えいのないこと)を見せます。デジタル粉塵計は感度が悪いので、多少の整備不良は除去開始前には分かりません。役所の立ち会いで養生の確認などオーケーをもらったら次に、除去作業中の役所の測定に入ります。除去作業者の方は防護服を着て中に入り、除去工事が始まったことを伝え、役所は測定をするのですが、その測定の間、区域内では除去作業は行わず、ただそのまま時間をやり過ごします。役所の測定が終わり、測定結果として、この工区は問題ないというお墨つきをもらってから、実際の測定と除去工事が始まります。

 

 この現場、私たちは除去計画会社さんから測定をもらうという分離発注に近い形です。ここの現場の除去会社さんはこことは初めて組むというような形でした。私たちは、この計画会社さんたちと、今までも漏えいさせないという立場で工事に当たってきましたので、今回も計画会社さんからは「漏えいさせないように」ということを厳しく言われていました。「もし、現場の除去会社さんが言うことを聞かなかったら、けんかしてでも止めろ」というように言われていました。実際、集塵・排気装置はだめだったわけですが、その関連で、最初の工区で4日ぐらい工事が伸びました。そうしたら、私たちが現場から去るようにいわれました。その後、この現場の除去会社さんがいつも使っている測定業者が入り、この現場は無事に除去工事が終わりました。大きな現場だったのですが、スムーズに終わったということで、優良業者として褒められたと聞いています。

 次に、「請負順位が末端の測定業者が、要求されてもいないのに、生き延びるために実施していること」を紹介します。1、常に検出限界未満の数値を報告します。除去工事で何があろうと、その工事の測定は常に検出限界未満の値を報告します。

 2番目に、ゼネコンなどのアスベスト担当者のストーリーに合わせます。これはどういうことかというと、「ろ紙捕集の顕微鏡の濃度測定で、もし石綿繊維を多く採取してしまった時には、測定ろ紙を低温灰化して分散染色方法で確認しろと指示されます。低温度灰化は、石綿繊維が細い場合発色せず、位相差顕微鏡の分散観察では石綿繊維が見えなくなって、濃度が低く出ることは分かっている方法です。分析業者は、その指示に従って分析をします。また、デジタル粉塵計を作業場の周りで多く使います。実際の顕微鏡を使った濃度の結果とは関係なく、デジタル粉塵計の数値に合わせ、建設ゼネコンの担当者が「そうだね」と納得する値を報告するということを行います。

 1について、例を二つほど見てみたいと思います。

 自治体発注の解体工事、これに伴う青石綿の除去工事です。この現場でも、私たちは先ほどのように分離発注に近い形で測定に入りました。この現場は、4階が作業場です。1階に排気口が下ろされており、赤丸が業者の指定した測定点、青丸は私たちが勝手に測定した点です。風は北向きだったのですが、北側に工事フェンスがあって、この外側には喫煙場所があったため、ここも測定点としました。排気口で4,000本/L、風下で330本/L、風上でも20本/Lという高濃度の結果が確認されました。この現場はどうしてこうなったかというと、私たちは、まず作業開始前の確認をすることは許されませんでした。役所の立ち会いに居合わせることも許可されませんでした。指定された時間に現場に行ってみると、既に除去工事は始まっており、行ってすぐに集塵・排気装置の排気口をパーティクルカウンターで確認しました。その結果がこれです。もう大慌てで工事を止めに行き、工事を止めてもらってから、先ほどの測定点、測定器をセットして測定を開始しました。

 その時の除去業者さんの言い分です。「今まで集塵・排気装置から漏らしたことなんてない」と真顔で迫ってきました。「デジタル粉塵計では問題なかったのに」とおろおろするばかりで、その後何もできません。続いて出てきた言葉は「内装解体の影響じゃないのか。毎回整備して持ち込んでるのに」というような言い訳です。実際おろおろするばかりで、何も対策を取りません。真顔で「漏らしたことはない」、その後何も対応できないという様子を見ると、本当に今まで「漏えいしてる」という指摘をもらったことはないと感じました。

 二つ目の次の例です。屋上の煙突を、アスベストを調べずにぶっ壊してしまった、それで問題になった現場です。その煙突の除去工事、そこで私たちは分離発注で測定に行きました。このときの除去業者さんは「私たちが変な値を出すと思ったのか」と。自分たちも自信があったのでしょう。自分たちが常に使っている測定業者さんを並行測定でつけました。その並行測定の様子です。これは私たちの測定器、これは並行測定業者さんです。ここの部分を拡大して見てみると、吸引のチューブが折れ曲がって、空気が吸えなくなっています。ポンプは異音を放ち停止してしまいました。停止して2時間以上たっても並行測定業者さんは現れないので、測定結果が違うと問題になっても困りますから並行測定業者を呼んだ除去業者さんにポンプが止まっているということを伝えました。

 この測定ポイント、4時間の測定だったのですが、3時間半経過の時点まで、定期的に石綿濃度を測定しているろ紙の様子、ポンプの状態を確認しているのですが、そこまでは問題ありませんでした。4時間で回収に行ったところ、ろ紙がこのように破られていました。このようにろ紙が破られていたのは初めてです。ここの現場、工事エリア内の柵で囲われた中ですが、何者かに私たちの測定ろ紙を破られてしまったということです。

 同じ工事現場の違う測定ポイントです。これは私たちの測定器、並行測定業者さんの測定器でろ紙ホルダーの中を見てみると、ろ紙が外れているのが分かります。正常なろ紙ホルダーの中はこうなって、きちんとろ紙がおさまっています。並行測定で、私たちもお互いに大変注意して測定するプレッシャーのかかる状態で、先ほどのことやこれのような測定が行われています。では、注意して測定するプレッシャーのない状態ではどうなのか、何が起こっているのかは想像できると思います。このような測定業者さんから、「問題ないという測定結果」を常にもらっていたら除去業者さんも「管理出来て漏えいした事はない」と勘違いしても仕方がないと思います。

 

 最後に、除去残しについて見ていきましょう。私たちは建物解体前のアスベスト調査を行うこともしていますが、そのような時に除去残し、除去済みというエリアからアスベストの除去残しということを確認します。そのような時にクボタショック直後は工事が多くて、除去残しが多いからとよく言われるのですが、実際はどうでしょうか。見てみたいと思います。これは2007年に除去が行われたテナントビルの最上階の天井内の様子です。天井内のジュート巻き配管の上には青石綿が積もっています。除去後に吹き付けられた発泡ウレタン、つりボルトや天井の角のところを剥がしてみると、青石綿が確認できました。

 これも、2007年に除去された青石綿吹付材の跡です。違うテナントビルですが、その機械室に青石綿を確認することができます。

 これは社宅の風呂場です。改修工事で天井は樹脂製の新しい天井がついているのですが、その中を見るとアスベストを含有する抄造セメント板が残っていることが分かります。これも2007年の除去されたところです。白石綿を含有するロックウール吹付材、この除去が行われました。このとき、実は私は2007年に測定に行っています。この現場、実は昨年、解体を前提としたアスベストの調査を私たちが行いました12年ぶりにこの機械室に入ったのですが、当時から、きれいに除去する、信頼している業者さんだったのですが、改めて見て、元々、吹き付け材は鉄骨の梁、その振れ止め、あと直天上部分に吹き付けられていましたが、振れ止めを見ても、この間を見ても、残っていませんでした。除去された後に貼られたケイカル板、穴を開けて中を無線カメラで見てみましたが、この鉄骨の角にも残っていませんし、グラスウールの吸音板は外して見てみても、除去残しを確認することはできませんでした。当時から、自分たちの仕事に責任と誇りを持ってしっかりやっている、このような除去業者さんもいたということです。

 

 最近の様子を見てみたいと思います。2017年に除去された茶石綿の吹付材です。鉄骨には吹付材が残っている様子が分かります。これも2017年小学校の便所の天井のケイカル板の改修工事です。私たちは、ケイカル板撤去が終わったので測定に来いということで呼ばれて行きました。その便所に向かう途中の通路、そこにはケイカル板の破片が散乱しています。便所の中にもケイカル板の破片が落ちていました。実際、測定結果です。便所の中の測定値はアモサイトが860本/リットル、このような状態でした。

 

 これは、2018年に除去された工場の外壁の仕上げ塗材です。残っている様子が分かると思います。これも2018年です。石綿円筒の撤去工事、石綿円筒の撤去は、最終的に石綿円筒のガラと、そうでないガラがより分けられて、そうでないガラは現場に残されるのですが、そうでないガラの中を見てみると容易に石綿円筒のガラが見つかるという状態でした。2019年、去年です。これも茶石綿の吹き付け材ですが、除去した後、鉄骨に残っている様子が分かります。

 

 これは今年です。比較的小さなビルだったのですが、それの鉄骨と直天上部分にクリソタイルを含有するロックウール吹付材、直天上部分を見ても、残っている様子が分かります。鉄骨のボルト周りもしっかりと残っています。先ほどのスライドの下の方に小さく、「第三者による完了検査がない限り除去残しは続く、いつまでも」と書きましたが、実際検査が行われた現場を見てみたいと思います。

 これは2016年、除去された青石綿、吹き付け材除去工事ですが、自治体施設だったので、自治体職員の検査がありました。私たちはこのとき偶然居合わせることができたのですが、これほど残っているので、まさか合格することはないだろうと思っていたのですが、合格して、かなりショックを受けました。

 

 これは2017年、煙突の除去工事、先ほど例に挙げた煙突ですが、自治体の職員の方が常駐して検査をしていましたので、検査に合格だということで、「じゃ、中を見せてもらっていいですか」と許可をもらって中を見ました。そうしたら、このような状態で、かなり残っていましたので、自治体の職員の方を現地まで呼んで、来てもらって、このようなところに残っていますということを指摘したのですが、最終的には揉めることになってしまいました。

 

 これも公的施設で役所の検査済みの場所です。元々直天上部分にひる石の吹き付け材がありました。梁と壁は塗装です。なぜか、ここの梁だけは塗装が除去されており、コンクリートの素地が見えるので、色の違いでここは残っているのではないかということが分かると思うのですが、近寄ってみると、厚みがあることが分かりますね。見た感じ、粗落としをして、最終的な仕上げで手を抜いているような感じに見えます。でも、これでも合格になっています。

 

 次に、これは除去工事とは少し違うのですが、2012年に青石綿を飛散させてしまった公立高校で、2016年、年に1回の定期環境測定、私たちが受注して濃度測定を実施しました。そのときに、音楽室から青石綿が飛んでいるということをろ紙で捕集して確認しました。そのような結果を出したので、教育委員会が清掃に入り、一生懸命清掃して確認して、その再測定ということで私たちは現場に向かいました。そのときの学校の事務職員の方から言われた言葉です。教育委員会の方が言っていたという話で、「1年前に工事が終わってるのに、気中濃度測定で青石綿が出るなんて、あなたたちが間違えてるんでしょう」と言われました。音楽室を細かく見ていくと、教育委員会の方が掃除して、きれいにして確認していると言った部屋ですが、鍵盤の上に青石綿が確認できました。

 

 周りも見てみようということで見てみると、渡り廊下の上に青石綿が残っています。窓際にも残っています。他の階の渡り廊下、クラブの水筒やコップが置いてあるところですね。これをどかせてみると、ここに青石綿が残っていました。このような状態だったので、業者を入れて学校全体を掃除することになりました。何日もかけて掃除して、教育委員会がしっかりと確認し大丈夫だということで、学校全体の環境測定をもう一度やり直すということで、測定業者を4社入れて行うことになりました。そのうちの1社に私たちも入れてもらうことができました。

 

 そのときの私たちが行った教室の中の一つです。壁を見てみると、青石綿がくっついていました。この教室の他の壁ですが、青石綿が残っていました。何が言いたいかというと、いくら検査をしていても、アスベストを見分けられる人が見ないとだめ、分からないということです。

 

 最後にまとめです。建物のアスベスト調査は解体除去にあたる業者とは分離し、有資格者が実施する必要があるのではないかと思います。改築解体工事に伴うアスベストの濃度測定は、ゼネコンや解体除去にあたる業者とは分離が必要ではないでしょうか。資格制度の創設も必要だと思います。改ざんを行う測定業者には罰、制裁が必要だと思います。アスベスト除去にあたる業者は、国による資格制度の創設も必要ではないでしょうか。漏えい防止しない業者には罰、制裁が必要だと思います。アスベスト除去工事ではアスベストを見分けることができて、利害関係のないものによる目視、目視による完了検査をまず義務づけることが必要だと思います。以上です。