解体・改築の環境ばく露「文京区保育園事例」

Symposium 2008/08/28

解体・改築の環境ばく露「文京区保育園事例」(3/3)

 近年の東京のアスベスト大気中濃度はだいたい0.何ファイバー/リットルということですので、これが10−5レベルぎりぎりのところです。ですからこの大気中濃度による生涯リスクにこのリスクが上乗せされた。しかもこれが2,3週間という非常に短い期間で、さらに0歳から5歳という子供たちにばく露されてしまったわけです。このリスクを計算する時に用いましたのは、WHOやEPA、あるいは日本の産業衛生学会のいろいろな推計式が出ていたのですが、特にHughesという人の論文を用いました。小学校の1年生から6年生まで吹き付けアスベストがあり、少しずつ剥離していた学校の校舎内で勉強していた子どもたちのリスクを計算した論文がありました。普通こういうリスクの評価の際には権威のあるWHOや、EPAの数値を用いるわけですが、このHughesの論文の対象者は0歳から5歳よりはもう少し年をとっている小学生ですが、それでも大人の、労働者の疫学調査から得た数値よりは、すこしは子供たちに近いのではないだろうかと判断しました。

 このリスク計算の値が一番高いリスクを評価することになりましたので、委員の間で合意をして、一つの論文ではあるけれども子供たちという不確実性の大きい時期にばく露したということで、この値を用いました。先ほど申しましたように、日本の環境基準は当面ではありますが生涯発がんリスクが10−5以下になるように決める、それ以上である場合には何らかの対策をとる必要があるというのが現在の考え方です。10−5を超えるばく露量、しかもこれはバックグラウンドが10−5で、さらに上乗せさせられたということになりますので、こういう子供たちを将来フォローしていこうという結論になったわけです。

 委員会として、区が責任をもってフォローアップをすることを提言したということであります。


 コミュニケーションの状況として、一つには委員会に非常に多彩な専門家に加わっていただいたということと、保護者推薦の医師、NPOの代表も参加してもらった。それから委員会は原則すべて公開にいたしまして、夜7時から開催しました。皆さん働いていらっしゃるために、保育園にお預けになっているわけですので、皆さんが参加できるように、ほとんど原則夜7時からの開催にしました。それから中間報告、最終報告を出す前にそれぞれパブリックコメントを募集しました。区の委員会ではパブリックコメントを求めたことはこれまで無いと言われましたけれども、パブリックコメントを募集してそれをもとに修正しながら報告書を作成しました。そういうこともありまして、最終報告をまとめるまで4年くらいかかってしまいました。皆さんがある程度納得する結果が得られたと思いますが、その間保護者に対する心理的ケアというものが、不十分であったというのがその後の我々のひとつの反省点です。これは一つには、自分たちが気がついていながら子供たちのアスベストのばく露を防止できなかったという自責の念が、お母さん方に非常にあります。もうひとつは今後保護者が当事者の子供たちにどのように事例を説明していくかです。先ほどタバコとの相乗効果という話がありましたが、中学生くらいになりますと、興味でタバコを吸い始めるお子さんたちがいます。もう8年経ってしまいましたので、当時5歳の子ども達はそろそろ中学生になります。そういう時に子供たちにタバコを吸ってはいけないとどういうふうに言うかというような、いろいろな問題にこれから直面していくということでございます。

 そういう関係で、その後健康対策実施委員会が設置されました。これにはさらに保護者の代表2名に参加していただきました。さらに心理相談の専門家の参加をお願いして、これまで月にだいたい1回くらいやっております。

 それで健康管理手帳を作成いたしまして、希望者に配布しています。こういう事件を忘れたいという人もいらっしゃいますので、この方たちには、区にずっと保管してありますので、もし欲しい時にはぜひ取りに来てくださいという言い方をしてあります。

 実際に健康リスク相談と心理相談を月に1回ずつ行なっています。昨日もそういう相談会がありました。

 今まで述べてきたことは、不幸にも改修の時に不注意から園児たちがアスベストにばく露されてしまったという事例ですが、冒頭にお話しましたように、平成7年、あるいは8年の時に環境庁が委員会を作りまして、今後吹き付けアスベストの解体の時に、一般住民にばく露する恐れがあるということで、いろいろ推計を行った時の資料です。

 これは鉄骨系のものとコンクリート系のもの、だいたい耐用年数を40年、45年、50年というふうに推計した時に、吹き付けアスベストが解体工事で排出される量の予想です。ピークになる時がだいたい2010年から2015年になるだろうと予想いたしました。

 それからこれが石綿スレートのアスベスト排出量です。これは成型板と言われているもので、使っている限りは飛散が無いということで、非飛散型のアスベストと言われています。これも解体の時に割ったり剥離いたしますと、その時に飛散するということがわかっております。使った量としてはこちらの方が10万トン単位で使っておりますので、吹き付けアスベストよりは多いわけです。

 飛散量は吹き付けアスベストの剥離時よりはずっと少ないわけですが、成型スレートも取り壊しの時に不用意に現場で割ったり砕きますとそこで飛散する可能性があるということになります。

 これは吹き付けアスベストを含む解体時のアスベスト濃度の周辺環境濃度ということで、対策をした場合、対策が不十分な場合ということで、この時もいろいろなところから資料を集めまして図表にしたものです。やはり吹き付けアスベストの建築物の解体を不用意に行なえば最大時で440本f/Lというようなことにもなります。平均値も10本台になってくるということです。マニュアルのような対策を取ればだいたい0.何本ということになろうかと思います。

 今の規制や条例で示されているのは作業基準になっています。これはアスベストの大気中の濃度を測定する結果が出るまで、今大体2,3週間かかってしまいます。今解体して大気中の周辺環境の濃度を測って2,3週間後にその結果が出た時には、解体が終わってしまっていて、結果的にアスベストが飛散していたということでは困ります。こういう場合には、こういう作業の形態を行なっていれば周辺への飛散は最小限に抑えられるという作業基準の方が効果的なわけです。なぜ解体中に周辺濃度を測定しないかというご意見もありますが、現行の作業基準では解体時に測定しておくのが望ましいということになっています。測定しておいて、2,3週間後、その解体工事は終わっているかもしれないけれども、こういう工事をしていれば、アスベストが出ていなかったというデータを蓄積して、それでまだ不十分であれば、またさらに厳しい解体マニュアルを作るために、解体工事中は決められた作業を行なった周辺でアスベスト濃度を測定して欲しいということは書いてあります。しかしそれをもって基準にしてはいないということです。

 最後にリスクコミュニケーションの大切さということですが、これから起こるかもしれない解体時のアスベストばく露というものはどうしても、行政が規則や条例、基準を作ったり、マニュアルを作ってもなかなか監視が行き届かない面があります。ですからこういうシステムをどのように効果的に作るかということがこれからアスベスト解体、改築時の一般住民へのばく露、飛散を防止するために非常に重要なポイントになろうかと思います。これには住民の方のご協力も是非必要になってくるでしょうし、専門家のアドバイスも必要になってくるということで、いろいろここに書いてありますけれども、リスクコミュニケーションというのは未然防止とリスクの削減を目標にするということが第一です。今の化学物質のリスクコミュニケーションというのはともすると安全性を両者で確認すればいいんだということになりがちですが、ぜひとも真のリスクコミュニケーションの意味というのを理解していただきたいと思います。有り難うございました。

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