クボタ周辺の患者、家族の相談から

Symposium 2008/08/28

クボタ周辺の患者、家族の相談から(3/3)

 基本的に職業曝露はまず無い人、クボタしか考えられないという46人に限定して、その分布と2000年以降の死亡者についてリスクを推定したそうです。死亡リスクについては結果としてはクボタに近いほど高くて、計算上では9.5倍を試算できました。聞き取り調査の中で、いろいろなエピソードがあがってきています。クボタの南側には東海道線の線路があり土手になっています。小川も流れ、空き地もありました。小学生の頃にそこに盛んに遊びに行ったという証言もあります。

 これが、今の地図でして、真ん中の十字がクボタです。

 これが、白地図の上にプロットしたものですが、○印が2000年以降の死亡者を示しています。▲印が1999年以前の死亡者です。□印が療養中の人です。中心の四角がクボタです。クボタの南側、線路をまたいだすぐのところが空白になっていましてちょっと不自然なのですが、そこには小田南中学、大きなヤンマーの工場、線路の北側にはキリンビールの工場があります。近くに患者が集まっていることが相談者だけのデータで出てきました。

 問題点がいくつかあります。一つは電話問い合わせがあったものだけを対象にしているので、母集団を特定しがたいということです。このことはリスク評価を難しくしているのですが、先生のお話では要するに症例数が集まってきませんので、全体的にリスクを過小評価する方向に働いていると判断していらっしゃいます。それからもう一つは中皮腫の診断は結構難しくて、一部病理組織所見が取れている方もおりますが、多くは(死亡)診断書に基づいています。今後診断精度の確認作業をするということです。ただしいずれの方も、兵庫県内の有数の大病院での診断結果であり、特に2000年以降の方々は、免疫組織染色検査などが普及した以降の診断であることをふまえると、多少は誤診的なものがあるかもしれないが今回の結果を変えるほどの誤りは無いと判断しているそうです。

 結論を言いますと、中間報告の段階ですが、クボタを中心とした同心円上の中皮腫発生状況は、特に潜伏期間を考慮した2000年以降の死亡に限定すると、その死亡リスクはクボタに近いほど高く、500メートル以内で全国平均の9.5倍と推測されました。ただ9.5倍という数字は、まだ全数を拾えていないこと、全国平均の値はもともと中皮腫がアスベストとの特異度が高いので、職業性暴露を含んだものというのは明らかですから、全体としてのリスクはやはり過小評価にならざるを得ないと考えているということです。もう少し補足しますと、500メートルから1000メートルが4.7倍です。1000メートルから1500メートルが2.2倍です。

 今後の調査の方向性としては当時のクボタ周辺の環境中のアスベストの評価のために、当時のクボタ自身の曝露対策、生産状況、特に環境対策の実情を調べる必要があるということです。また、他の発生源がないかを周到に検討する必要もあるのということで、中皮腫の患者さんに関しては、死亡個票というのがありまして、過去3年以内に尼崎で亡くなった方は、全数が把握できる体制になっています。今、尼崎市は環境省と一緒になって、その3年間の中皮腫の全数調査を始めました。今回の調査とは相互補完的な関係になるので、本当は一緒に協力して、症例数もあわせて全体像を見るほうが適切なのではないかというのが先生のご意見です。ちなみに先ほど46名あるいは55名という数をご紹介しましたが、その内、約3分の2は尼崎以外で死亡した人からの相談でしたので、そういう意味で尼崎市の全数調査と合わせないと被害の全体像が判らないことになります。例えば先ほど1000メートルから1500メートルの方のとりあえず計算したリスクが2.2倍と言いましたけれども、そういう尼崎市のデータが入ってくると、全体的にリスクが上がる可能性があります。

 今回の調査が、専門家の人が中心になりながらいろいろな人が協力して、被害の全体像を明らかにしていく契機になればいいかなと思っております。

 これはクボタから提供された航空写真です。白丸のところに通常アスベスト工場で一番粉じんが発生する解綿工場があります。この辺に粉じんが多く発生するだろうという工程が比較的固まってまして、人家に近いところにあることがわかりました。

 今、クボタは因果関係を公式には認めておりません。最初に記者会見された中の前田さんは高齢ですし、他の方もたいへんな療養生活を送っておられます。そういう意味ではこれほど原因がはっきりしている事件について、クボタは因果関係をお認めになって、被害者に対し一刻も早い補償をするべきだと私は強く思っております。特に療養中の方については休業補償とか医療費といったことから、お始めになるほうがいいと思います。今回の調査の中間報告を見て、見舞金や弔慰金という問題ではすでにないということを、さらに確信しております。今もいろんな調査が動いていますがそれらの結果が出るのを待つのではなく、今からちゃんとした補償をするということで、クボタの方には対応していただきたいと考えています。

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