シンポジウム第1回 公共建築物の吹き付けアスベスト

Symposium 2004 : 1-3

基調講演「公共建築物と吹き付けアスベストの問題点」(3/3)

 第3の最大の問題は、調査対象が不備だった事です。このような判定の方法でアスベストを発見しなさい、と昭和62年の通達では、参考として吹き付けアスベストの商標として3つ挙げています。トムレックス・ブロベスト・コーベックスの、有名な吹き付けアスベストです。次に『次の製品は吹き付け石綿ではないので注意すること』とわざわざリストで指示を出しています。「次の製品」リストに私が丸と三角で印を付けましたが、丸は後に環境庁が『アスベスト製品だ』と断言したもので、三角の二つはアスベスト含有が疑わしい製品です。これらの製品がリストにある15品目のほとんどを占めています。当時の文部省の指示は全くのでたらめで、吹きつけ石綿せないとした「次の製品」の中にアスベストが含まれている物が相当あったのです。

 わざわざこのような指示を通達で出したことに大きな疑問があるのですが、様々な力が加わったのであろうと考えています。今後、学校の吹き付けアスベストなどからもし被害者が出てそれが立証されるようなことになれば、この文部省の文書の責任は非常に大きいと思います。

 昭和62年に練馬区の教育委員会はアスベストに関して実に綿密な調査をしています。私達が最初に練馬区に行った時はこの資料は無いとされていましたが、教育委員会が捜してくれた結果出てきました。他の自治体より熱心に調査をして対策を練ったことが分かりました。

 当時の調査で、アスベストが無い学校としてこれだけを挙げています。アスベストがある学校もこれだけあるときちんと示しています。普通教室での使用がある・なしと整理して別けて載せています。

 それをまとめると下図のようになります。昭和50年度以前に建設した学校として総数51校・1013教室・61,260m2、からアスベストが出てきている。普通教室として使用されていたのが36校・430教室・25,800m2でした。これらのようにきちんと調査されて対策がなされていたにもかかわらず、今回の調査では吹き付けアスベストが露出したまま発見されたというのは、まさに当時の調査そのものが十分なものではなかったということです。それに加えて、昭和55年以降に建てられた建物の石綿が含有した吹き付け岩綿(ロックウール)には全く配慮がなかったということです。

 その後の追加調査で、1983(昭和58)年から1988(昭和63)年の建物の、岩綿ロックウール吹きつけ内の石綿含有が判明しました。下図を御覧下さい。


 昭和62年通達は、吹き付けロックウールについての調査をせよとは書いてなかったので、多くの自治体がこの調査をしなかったということです。練馬区もどちらかというと、吹き付けアスベストの調査はしたけれどもロックウールについてはしなかったのです。しかも練馬区は吹き付けロックウールの比率が高かった自治体なので、現在まで残ってしまったというわけです。現在多くの自治体で、未だに公共施設で吹き付けロックウールを含めた吹き付けアスベストが相当数残っているであろうと思います。その他パーライト吹き付けやバーミキュライト(ひる石)吹き付けの石綿含有等も、その後少しは書いてはあったけれど、まだ問題化されていなかったので調査しなかった。そのためアスベストが各自治体に残っているということです。学校の吹き付けアスベストのある範囲の問題は1987〜88年頃に片付いたけれども、残りの多くの問題が実は片付かないまま現在まで来ている、そのことが問題だということです。

 ところが、各自治体の営繕課の方や教育委員会の方は『昭和62年の一斉調査でアスベストの問題は終わっている』という話になります。多くの自治体で昭和62年当時は対策についていろいろ勉強されたと思いますが、『現状では終わってしまった問題だ』という認識が多く、アスベストについて質問しても、『それはちょっとわかりません』ということになってしまう。本当は一番知っていなければならない人達に十分情報が伝わっていないのではないか、と思っています。終わっているという認識でなおかつ残っているということは、17〜18年間全く野放しの状態で吹き付けアスベストが子供たちの頭の上に存在し続けたということです。是非とも施設の一斉調査に取り組んでいただき、その中で特に子供たちが日常使うような施設については早急に除去、対策はいくつかありますがその中でも除去が一番お金もかからず安全な方法ですので、して頂きたい。

 当時の対策は除去で、これは一番良いことですが、その他にも、囲い込みという天井を板で見えないようにふさいでしまうのと、もうひとつ、封じ込めといって薬剤で表面を固めてしまう対策が採られました。この、囲い込みと封じ込めがされたアスベストですが、17〜18年後に劣化して現存しているのです。その状態で十分な対策をしないまま解体や改修工事がなされてしまうことがあるのです。この点については十分に注意する必要があると思います。

 改築時の吹きつけアスベスト飛散については、典型的な事故が1999年に文京区の保育園で起きています。建物の解体・改修工事の際には法律でいくつかのことがアスベストに関して決められています。ひとつは、アスベストの事前調査をしなければならない、これは、労働安全衛生法の特化則、特定化学物質等障害予防規則のなかにあります。しかも、調査を文書に記載しなさい、ときめられています。もう一つは、そこでアスベストが発見されたということならば、労働安全衛生法により事前の届出を労働基準監督署へして、決められた手順で除去工事をすることが決めてあります。それと同時に、大気汚染防止法で、自治体により届出先が違いますが、工事の届出が必要になります。また、東京都においては、環境確保条例によりアスベストの事前の届出が必要で、かつ、決められた手順で工事をするよう決められてあります。これらを守らなかったことにより、ある保育園では非常に大きな飛散事故が起きたのです。このようなことが大体の公共施設のアスベストの現状であると認識しています。これを踏まえて議論を深めてゆければと考えています。(基調講演に大幅に加筆)

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