文部科学省「学校施設等における石綿含有保温材等の
使用状況調査(特定調査)について(依頼)」と
その後に当センターが実施した
「2015年全国教育委員会アンケート調査」

The Surveys by MEXT and Asbestos Center

 2014年7月14日、文部科学省は「学校施設等における石綿含有保温材等の使用状況調査(特定調査)について(依頼)」(26文科施第197号)を、文部科学省大臣官房文教施設企画部長名で、全国の都道府県教育委員会等へ発出しました。

 2014年石綿障害予防規則が改正されたことに伴い、(石綿則の)レベル2(対応建材)に当たる「煙突用石綿断熱材」、「(石綿含有各種)保温材」「石綿含有耐火被覆板」等の学校施設等での調査の依頼です。実施手順例、調査対象建材名等が列挙されています。
文部科学省 最終閲覧日2015年12月21日)

 中皮腫・じん肺・アスベストセンター、および中皮腫・アスベスト疾患患者と家族の会は、文部科学省の調査について、2014年9月30日に、田村智子参議院議員を通し文部科学省の担当者を呼んで協議を行いました。この協議の際に、調査の実施者は石綿含有建材調査者等の専門家ではなく、教育委員会職員や学校職員など石綿含有建材の調査の素人によるものであることが判明しました。これでは不十分な調査結果となってしまい、今後の学校施設の改修工事・解体工事発注時に見落とし等の違反工事が発生するおそれがあると私たちは指摘し、石綿含有建材調査者による調査を行うように申し入れました。

 田村智子議員は2014年10月28日の参院文教科学委員会で、学校施設のアスベスト(石綿)対策について質問。健康被害を生じさせないために、専門家による調査を徹底させることなどを求めました。 田村智子議員 (最終閲覧日2015年12月21日)

 アスベストセンターは、2015年5月、今年度の夏休みに全国の学校施設の改修・解体工事が全国の教育委員会により発注される前に、全国、都道府県及び市町村1903教育委員会へアンケート調査を行いました(教育委員会「レベル2」石綿含有建材アンケート調査報告(PDF))。当センターが実施したアンケート調査の回収率は全国の教育委員会の30.2%で十分高いものではありませんが一定の傾向が見て取れます。

 石綿則のレベル2の疑いがある煙突用断熱材のある煙突は586本、保温材が1111例、耐火被覆材が59でした。

 国土交通省による公的な資格である石綿含有建材調査者を知っていると回答した自治体は29.6%、石綿含有建材調査者を調査に使った自治体は3.9%、学校職員や教育委員会職員による調査は49.2%という問題の結果でした。

 アンケートに答えた自治体の半数は、アスベストに関する専門的知識を持たない「素人」による調査ということが判明しました。専門家による調査に基づかないで石綿含有建材の工事が発注されることにより、事前調査が不十分なまま工事が行われていることが数字でも明らかになりました。これでは学校の改修・解体工事よるアスベスト飛散事故は後を絶ちません。

 アンケート結果をもとに田村智子議員を通して、2015年夏休み直前の7月10日、文科省を呼び文科省調査の公表を要請し、さらにアスベストセンターが行ったアンケート調査結果を示し石綿含有建材調査者による調査とアンケートの回答に複数の意見があげられた文科省による調査費用の全額負担を要請しました。

 要請に対し文科省は、今回のレベル2調査は疑いのある建材を調べさせたもので本格的なアスベスト調査ではないこと、調査結果について公表する予定のないこと、全国の教育委員会から上がってきている調査結果にいろいろと誤りがあることなどを回答しました。また文科省は、石綿含有建材調査者はまだ全国で人数が少ないので事前調査を石綿含有建材調査者に限って行わせるのは現実的ではないとしました。アスベスト調査の費用負担は慣例として各教委が出しているので、文科省の負担は考えていないと回答。しかし一方で調査費用を各自治体が捻出していることの根拠はないとしました。要請した内容に関する回答は、ゼロ回答に近いものでした。要請後アスベストセンターは記者会見を行い、その内容は教育新聞の記者が記事として発表しています(教育新聞記事(PDF) HP転載許可済み)。

 この件について、文科省は2015年10月16日「学校施設等における石綿含有保温材等の使用状況調査(特定調査)の結果について(通知)」を発表し、「本調査の結果、石綿の含有の有無に関わらず劣化、損傷等がある保温材等を保有する機関が155機関、石綿を含有する煙突用断熱材に劣化、損傷等がある煙突を保有する機関が380機関あることが明らかになりました」としました。( 文部科学省 最終閲覧日2015年12月24日)

 しかし上記の調査結果はアスベストセンターの行ったアンケート調査から明らかなように、石綿含有建材調査者による石綿含有建材に精通した専門家の調査ではないものが多く再調査が必要です。また各自治体の教育委員会の中には、調査費用が捻出できないことで専門家に調査を依頼できないとアンケート調査で答えているものもあります。文科省による調査費用の捻出と調査者によるアスベスト調査を早急に行うことによって、子供たちと教職員の学校施設でのアスベストばく露を根絶する取り組みが必要です。